TOP 社長を目指す方程式 部下や顧客の行動を“誘導”  業績を上げるのは「ナッジ」を使いこなす上司

2019/10/15

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社長を目指す方程式

第24回

部下や顧客の行動を“誘導”  業績を上げるのは「ナッジ」を使いこなす上司

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そもそも給与が下方硬直性を持つのはこうしたバイアスから説明できますし、行動経済学的に言えば、給与システムは年功的側面〜経年で上がっていく体系を基本として、「頑張って、毎年少しづつ給与が上がっていく」ナッジを使った方が、社員のやる気は下支え継続するのです。

 

実際のところ、今どき年功的給与体系が適している企業は極小ですから、理論は分かってもなかなかそれを活かすことは難しいでしょう。成果主義、実力評価は合理的には正しいので、その筋をしっかり通しつつ、社員モチベーション的には、仮に大きく減給せざるを得ないときに、必ず「この次に挽回できるチャンスとその方法、ロジック」をしっかりセットで渡してあげることです。そうすれば、次の半年1年の頑張りを促すことができるでしょう。

 

部下に計画を立てさせてもなかなか実行、達成できないことに悩む上司は常に多くいらっしゃいます。これは行動経済学的には、現在バイアスで説明されます。

現在バイアスは、将来のことについては我慢強い意思決定ができる(1年後なら100万円、1年と1週間後なら101万円を受け取ることができる、という2択の際は多くが後者を選ぶ)のに、現在のことについては安易な意思決定をしてしまう(1週間後なら100万円、1年後なら101万円を受け取ることができる、という2択の際は多くが前者を選ぶ)、計画はできても(半年後に5キロ痩せる!)、実行段階では現在の楽や楽しみを優先(お菓子やケーキ、ラーメンなどを食べてしまう)し、計画を先延ばししてしまうという特性を現します。

 

Q(クォーター)、半期、通期の売上目標を達成するということに対して、達成したくないと思っている社員はいないでしょう。でも、目の前の日々ではそのための十分な業務活動ができない。気がつけばまた半期末や期末が近づいてきて、少なくない目標残を抱え、残された営業日数での打ち手も尽き、鬱々と期末を迎える日々を過ごす…。

 

行動経済学的にもこの回避策は至って王道で、中長期目標を達成するために可能性をたぶんに含む短期目標〜毎日の行動計画を決め、この日々の行動計画を習慣ルール化することが結局、最もうまくいくであろう最善策なのです。マネジメントとしては、先々の大きな目標だけをロックインさせていてもダメで、部下たちの毎日の行動をしっかりチェック・管理することが、中長期目標達成に至る道なのです。

 

できる部下は、自分でこの毎日の行動計画の策定と実行、習慣化ができます。普通以下の部下については、結局、ある程度以上、行動を具体的に細かく管理できる上司が業績を上げるということが、残念ながら(?苦笑)、行動経済学で実証されてしまっているのです。
職場で活かすナッジには、他にもピアプレッシャーの活用や、金銭ではなく仕事そのものに意味づけを置くこと、また、返報性の論理を使うなど様々な「手」があります。これらについてはまた、今後の連載でもご紹介してみたいと思います。

 

さて、こうしてみてきて、ナッジは危険なマインドコントロールではないかと思う方もいらっしゃるかと思います(実際に、先の通りスラッジも存在しますしね)。行動経済学が提唱するナッジは、あくまでも「良い行動を、当事者に主体的に促すもの」です。ナッジ的思考行動特性を持つ人が、これからのできるリーダー、社長になる人だと私は思います。

 

  ※この記事は、「SankeiBiz『井上和幸 社長を目指す方程式』」の連載から転載したものです。
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プロフィール

  • 井上 和幸

    井上 和幸

    株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO

    1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。

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