TOP ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術 技術者が令和に飛躍するための3つのポイント

2020/01/16

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ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術

第58回

技術者が令和に飛躍するための3つのポイント

  • キャリア
  • ビジネススキル

 

◆畑違いの分野に飛び込む

2つ目のポイントが、あえて技術開発以外の分野を経験することです。私自身も味の素に入社して以来、国内工場の生産管理やアメリカの工場長、本社の経営企画などさまざまな場所でさまざまな職種を経験しました。その結果、どうやって経営を技術に生かすのか、または逆に、どう技術を起点にして経営していくべきなのかを考えるという感覚を磨くことができたのです。

 

技術者は入社からずっと、技術畑に居続けたいと考えている人が多いでしょう。でもあえて、手を挙げてでも畑違いの分野に飛び込んでいくことが重要となります。

 

私が技術者に一番勧める分野は、事業の最先端、取引先と直接やりとりする営業などを含めての事業部門です。事業部門では相手が取引先であるだけに、全く言い訳をすることができません。新事業を創り出すあるいはイノベーションを実現するために、良い経験になるはずです。また、ビジョンをつくり実現の方策を組み立てる企画部門などへの異動希望を出すのもいいでしょう。

 

これはぜひ、技術者以外の人にも知ってもらいたいポイントです。あなたが技術部門以外にいる管理者の場合、ぜひ技術者を登用してみてください。数字や技術に強い異分野の人が加わることで、違ったアプローチが生み出される可能性が高まります。

 

技術者の中には、技術畑から離れることを恐れる人も多いと思います。ですが、技術者は少々違う仕事をしたからといっても技術の動向から取り残されるということはありません。大学や企業の研究・技術部門できちんと基礎を学んできた人であれば共通言語があるため、最先端の技術についても理解することができます。変化を恐れることはないのです。

 

こうして企業の中でいろいろな経験を積みながら、10年ごとに自分の今後の人生について考えましょう。次の10年をどう過ごすのか。どんな経験を積み、どんなスキルを身に着けるのか。そのためには社内外を含めてどこに身を置くべきなのか。終身雇用制が崩れ、ずっと同じ会社で働くのが当たり前ではない今は、定期的に身の振り方を考える必要があります。自分のキャリア設計を会社が考える時代は終わりました。

 

◆チームで成果を出すことにこだわる

最後に技術者に伝えたいのは、チームで成果を出すことにこだわる、ということです。技術者はどうしても、独創性にこだわりがちで、チームで1つのテーマを突破する、という経験が少なくなりがちです。

 

でもマネジメントや経営を行うためにはこうした経験は欠かせません。1つ目の「経営の視点を身に着ける」、2つ目のポイントとしてあげた「異分野での経験」を積む際にはこうしたチーム作りをぜひ心掛けてほしいと思います。

 

チームを作る際は技術者だけで固まるのではなく、いろいろな分野で自分よりも優秀な人やあえて反対意見を言う人を集めることが大切です。そのうえで、自分の満足にこだわるのではなく、謙虚になり、チームで成果を出すことにこだわってください。こうした経験を積むことが経営マインドを持つことにつながっていきます。

 

以上の3つのポイントを意識して技術者が経営に参画するとどんなメリットがあるのでしょうか。

 

私は味の素の経営企画部長だった時に、当時の社長とタッグを組んで中期経営計画を策定しました。その際に打ち出したのは「香り、フレーバー」という軸です。味の素はそれまでも味や食感にはこだわっていましたが、人がおいしさを感じるための要素として“香り”が抜けていると感じたからです。この3つ目の要素が加わることで、味の素は従来の原料供給というビジネスモデルを、顧客の求めに応じてさまざまな提案ができるソリューション型ビジネスに転換できました。また、技術のバリューチェーンという観点からも重要だと考えました。

 

これからの企業にはこのように、技術と経営、両方が分かる人が求められます。だからこそ、技術者の皆さんには経営者を目指せ、と伝えたいのです。

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■書籍情報

『技術者よ、経営トップを目指せ!』
著者: 五十嵐弘司
出版社:日経BP
価格:1,760円(税込) 

この記事は、アイティメディア株式会社の許諾を得て
「ITmediaエグゼクティブ『ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術』」
の連載から転載したものです。無断転載を禁じます。
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プロフィール

  • 五十嵐 弘司氏

    五十嵐 弘司氏

    公益社団法人企業情報化協会代表理事副会長

    東京工業大学大学院総合理工学研究科修了(工学修士)。1980年、味の素に入社。バイオ精製工程のプロセス開発に従事。1998年からアメリカ味の素アイオワ工場長、技術開発センター長を経て上席副社長。2009年、味の素執行役員経営企画部長。その後、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員に就任。中期経営計画の策定、M&A実務実行など、味の素で経営の中枢を担う。また、技術統括・情報統括として、イノベーションの実現、グローバル展開、ICT活用やデジタル化を推進した。現在、公益社団法人企業情報化協会代表理事副会長、一般社団法人日本能率協会開発・技術部門評議員会副議長などとして活動中。企業経営にかかわる多数の講演実績がある

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